アイデンティティ・ポリティクス

カルチュラル・スタディーズアドルノ解釈がどうも気になっていたのは、両者の議論のずれがカルチュラル・スタディーズあるいは社会学的なポピュラー音楽研究の問題を考えるのに役立つように思われるからだ。

カルチュラル・スタディーズにせよ、社会学にせよ、現在は音楽集団の多様性やその間の価値闘争に着目する研究が(とくに若手研究者の間で)増えているように見える。方法は違えど、その根底にはもともと、一部の人間だけがメディア/音楽をコントロールし、それによって大衆を全体的に操作していると主張し、自分だけはそうした社会構造の外部に立っているかのように振る舞いながら、外部への突破口としてモダニズム音楽を持ち出す(と考えられている)アドルノに対する対抗の意図があったと思う。