新民謡と真民謡

「三朝小唄」について調べる。この小唄、どうも「新民謡」らしい。1928年に野口雨情が作詞し、中山晋平が作曲したもののようだ。大正中期から昭和初期にかけて、こうした「新民謡」は数多く作られる。その名の通り、新しく作られ、作者の明確なこのジャンルは「ご当地ソング」、それも宣伝の目的が濃厚な「キャンペーンソング」として機能していた。「三朝小唄」は鳥取県の温泉町三朝にちなんで温泉手拭いを使った振り付けがなされたし、静岡県の「ちゃっきり節」(北原白秋作詞・中山晋平作曲)は茶摘みの作業にちなんで茶摘み女の踊りが作られた。

これらの歌が当時、「ご当地ソング」でありまた「新しい民謡」=「ポピュラーミュージック」としてどのように流通していたのかも興味深いが、さらに面白いのはこれらの歌の現在の位置づけである。「新民謡」としての起源が忘れられ、各地の生活に根ざした歴史を持つ「民謡」として見なされ始めたものが数多くある。wikipediaなどでは、そうした変化を「誤認」としているが、重要なのはその出自の真偽ではない。むしろ重要なのは、それらが「ご当地ソング」として流通し、「ご当地」と関連づけられ、メディアによって反復されていくうちにその「民謡らしさ」のようなものが身体化されるということではないだろうか。その時「ご当地」の人にとって「ちゃっきり節」の茶摘みの動きと歌の響きはまぎれもなくホンモノである。偽とかホンモノとか分けて、もうホンモノには出会えないんだぜとか、俺はホンモノを知っているぜとか言っていても何も始まらない。

それは「民謡」と言われているものにしても同じこと。「安来節」の特殊と普遍を揺るがすネタをいつ出すか考える。

wikipedia 「ちゃっきり節」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A1%E3%82%83%E3%81%A3%E3%81%8D%E3%82%8A%E7%AF%80