新民謡

文芸学研究会に行ってきました。大阪大学は遠かった。

僕が聞いたのは大阪大学の方の「”日本民謡”の理念−西川林之助『民謡の作り方』と近代日本の民謡観」という発表。民俗的なものの国民化を論じるという趣旨だった。「新民謡」においては形式の均質化がより顕著となる。字数形式、言葉の問題(標準語化)、場所に関わる問題(匿名の場所)などなど。「創作民謡」においては「ご当地ソング」を作るのではなく、より普遍化された国民に向けて作ることが目的とされる。一方、伝統的な地方民謡はナショナル・アイデンティティの普遍化と同時に特殊なものとして見出され、保存されていく。発表者の結論によれば、地方の特殊性を消し去る「新民謡」と地方の特殊性を保存しようとする「地方民謡」は相反する運動ではなく、むしろ国民国家アイデンティティを確立するプロセスの両輪として考えるべきではないかということだった。

確かにその通りだと思う。ただこうしたことは民謡においても繰り返し言われていることで、それとどう距離をとるのかということはよく分からなかった。「新民謡」や「地方民謡」がどのように説得力を持って、場所に関わる意識を形成していったのか、そうした問題を分析などでもっと明らかにしていくべきではないかと思う。「新民謡」は昭和10年前後を境に消えてしまったというし、もしかしたら知識人の浮き足立った文化ナショナリズムに過ぎなかったかもしれない。ナショナリズム批判をやっていくことは重要だと思うが、ナショナリズムと言うだけでは全然足りないことを実感した。