日本レコード文化史 (岩波現代文庫)

日本レコード文化史 (岩波現代文庫)

初版は1979年。日本のレコードメディアを考える際には必読の書だと思うが、手に入らなかった。とにかく資料の量がはんぱではない。何をどうやったらこれほど資料が集まるのか。

レコードメディアの歴史を調べていたのだが、日本においてレコード産業がソフト・ハードともに国産化され始めたのは明治40年代初頭のようだ。それ以前は両者とも輸入に頼っていた。日本での録音が可能になると最初に売り出されたのは、講談、清元、浪花節長唄義太夫など東京や大阪で生まれた都市の音楽だった。民謡がレコードに初めて登場するのは、明治45年頃、追分節だった。興味深いのは、レコード産業と寄席との関係である。倉田によれば、追分節明治42年に東京に進出し、好評を得たことから吹き込みが始まる。民謡の産業化は寄席からレコードへという流れがあったようだ。純粋に聴覚的なものとして流通する流行唄、寄席における踊りも含めて流通する安来節というジャンルが、それ以降形成されていく。ともかく意識しておきたいのは、レコードという場所を越境して流通するメディアが、ひとまずは東京において録音されるということ。地方から中央へ集まり、中央から地方へ拡散するという流れがある。民謡の産業化は、東京での需要を前提として考えなければならない。

流通のことをもう少し調べたいが間に合うかどうか。研究室では明日に迫った卒論提出者たちがゾンビのごとく蠢いている。一人はどことなく死んだような目をしている。論文提出は余裕をもって。